経営戦略を研修で教えるときに、多くの企業が陥りがちな罠として、程度の差による競争の話をします。
競争戦略の焦点は、「コストリーダーシップ」「差別化」「集中化」であると言われますが、「程度の差」による競争は、やがて物理的・認知的限界を迎え、競争優位性を維持できなくなります。
差別化戦略を、この程度の差として認識してしまうと悲劇とも喜劇ともつかない奇妙な商品やサービスを生み出すことになります。
例えば、ひげそり。私が子供の頃、父が使っていたひげそりの刃は一枚刃でした。中学生くらいになって、うっすらとひげが生えてきた頃、浴室にあった父のひげそりでひげを剃ったのを覚えています。
それがどうでしょう。今では6枚刃のカミソリがありますし、電動シェーバーもなんと6枚刃のものがあります。
電動シェーバーの6枚刃のもののヘッド部分の縦幅はとても広く、ヘッドを鼻の下に当てたらその部分をフルカバーしてしまい、動かしようがありません。一体どうやってひげを剃るのか想像もつきません(笑)
カミソリも電動シェーバーも3枚刃が私にはちょうど良いのですが、男性の皆さんいかがでしょうか。
飛行機のリクライニングシートも、1980年代までに135度傾くようになり、その後、155度、165度と、背もたれの傾きで各航空会社はリラックス度をアピールして競いました。
しかし当然ながらその競争は180度のフルフラットシートの登場で終焉を迎えました。
私は密かに、どこかの航空会社が220度くらいになるシートを開発して搭載しないかなと期待していたのですが(笑)。長距離路線に搭載して、背中を伸ばしてストレッチしたくなったら220度にして少しエビ反る感じになったらいいのになと。
テレビのモニターの解像度も8Kで競争は終わりです。それ以上に解像度を上げても人間の目には8Kと同じに見えてしまうからです。我々が見ている世界は、8Kの解像度なのです。
ヘッドフォンも同様です。どんなに再現できる音域を増やしても、人間の耳が聞き取れる音には限界があります。
お茶の製品にも同様な競争が起こりました。十六茶は今でも売られていますが、十七茶、十八茶、十九茶、二十二茶、二十四茶というものが売られていたのをご存じでしょうか。
そして吉本興業が売り出したのがなんと四十八茶というオチまでついています。
そういえば、昔のビデオテープレコーダーも、高機能になるにつれどんどんボタンの数が増えていき、本体の前面がボタンだらけになっていきました。
程度の差の競争に陥り、使わない機能が増えていったわけですが、再生専用のビデオデッキが登場してヒットしたのも皮肉な結果です。何が顧客にとっての本当の価値なのかということを忘れてはいけませんね。